「部長」

がちゃりと扉が音を立てて開いた為に振り返れば、見知った先輩が立っており、その人物を確認すると、海堂はそっと口元を緩めた。彼を指す呼称を口にすれば、呼ばれた当人はぎゅっと眉間に皺を寄せ、強張った声を発す。

「…海堂、か。こんな時間にどうした」
「部長こそ…とっくに下校時間すぎてるっすよ」
「俺は生徒会の仕事をしていたら遅くなった。ちゃんと先生にも許可を取っている。お前は、こんな時間まで残っていては駄目だろう」

ギロリ、と眼鏡の奥から後輩の姿を睨めば、戸惑った様な表情を浮かべた後、海堂はそっと視線を下に向ける。発言を躊躇うかの様に口を開いては閉じるという行為を何度か繰り返し、意を決した様に想いを呟く。

「・・・部長が、手塚部長が居なかったから」
「海堂?」
「てづか、ぶちょう」

海堂が面を上げ、二人の視線が絡まる。部室に、沈黙が落ちる。次にどんなリアクションを取れば良いのかわからない手塚は固まったかの様にそこから動かない。そんな手塚に愛おしそうな視線を向ける海堂は、熱の篭もった声音で囁く。

「ぶちょう、抱いて」
「海堂?」
「頼むから、抱いて下さい。てづかせんぱい」

縋る様に己の衣服を掴む彼の姿に、動悸が激しくなるのを手塚は感じる。自らの熱を抑制する様に呼びかける理性と、本能を訴える身体の熱に挟まれる。くにみつさん、彼の薄い唇がそうかたちどるのを確認した手塚は理性が切れる音を聞いた。

「…後悔しても、知らんぞ」

手塚は乱暴に己の眼鏡を剥ぎ取り、唇を重ねた。水音が響き、衣服が擦れる音がする。
眼鏡が音をたてて地に落ちた。
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