あれから彼女をタクシーに乗せ(本人はしきりに電車で良いと言っていたが、暗い夜道ではどの様な輩がうろついているかわからないし、遅くまで付き合わせた俺の所為でもあるからだ)俺は電車で帰途につく。頭が、ぐらぐら揺れていた。話が弾み、酒を飲みすぎたからだ、と必死に自分に言い聞かせるが、理由はわかっていた。
「あの人の話をするなんて、何ヶ月ぶりだろ」
小さく呟いたその声は、誰もいない静かな部屋に、そっと響く。
中学時代にダブルスのペアを組んでいた俺たちは最強だった。部活外でも仲良く、そんな俺達は高校へ上がっても、当然のようにペアを組んだ。俺達が一緒にいることは当たり前だと思っていたし、周囲の人間も、それが普通であると認識していた。彼が大学へ進学してもそれは変わらず、高校生だった俺は、毎日の様に彼の元を訪れた。その後、彼とは違う大学へ進学したが、以前と同じ様に連絡は頻繁に取り続けており、さほど変化は感じなかった。そんな一見すると固く結ばれている様な関係が、意外にもうすく脆いものである、と気づいた人は一体何人いただろう。俺と彼が一緒にいる様にみえたのは、俺がよく彼の元へ行っていたからだ。連絡をとる時だって、いつも俺からメールや電話をしていた。それに気がついた時の喪失感は、今でも忘れることが出来ない。それでも、彼は拒絶した事がないのだから、迷惑に感じている訳ではないのだろう。彼は、感情をストレートに表現するタイプだからだ。しかし、一度感じた不安をそう簡単に忘れることは出来ず、それから俺は、小さな蟠りを抱えながら日々過ごしていた。本人に聞けば良かったのだろうが、拒絶されたときの事を思うと、恐くて尋ねることが出来なかった。だから、あの日が来たのだろうか。俺が臆病で、意気地なしだったから、天が罰を与えられたのだろうか。
「宍戸さん」
懐かしいその音に、自然と胸が締め付けられる。できることなら、昔に、あの頃に戻りたい。しかし、無情にも、時計の針は進み続ける。
(前回の続き。続く・・の、かな?)