テニスが好きだった。緑のコートの上で、黄色いボールを一心不乱に追い駆けまわるその行為に心惹かれる。力の全てを注ぎ込み勝利という二文字を掴み取る為に、毎日我武者羅に走り続けた。それが俺の青春だったかな、と隣に座る青年は笑った。首筋にかけられたロザリオが、振動で揺れる。
「ふうん、見た目と違って、結構熱血系なんだ」
「先輩に影響されて、だけどね」
「先輩?」
「うん、俺、先輩とダブルス組んでたんだ」
とても綺麗な人だった、と目をゆっくり細めて、彼は言った。どんな事にもまっすぐ向き合い、決して逃げ出すことのない、強い力の持ち主であり、純粋な心の持ち主でもあったらしい。
「俺の、憧れだったよ」
そういい笑う彼の笑顔は、先程までのものとは違い、かける言葉を見失う。ただ、彼がその思い出に何かしら思い入れがあった事だけは読み取れた。
「尊敬、してたんだ」
「あぁ、そうだね。大好きだったよ」
ゆっくりと持ち上げられたグラスの中の氷が、カラン、と音をたてた。
(続きます、)