ふわふわクラクラ世界が揺れる。
視界はパチパチ点滅を繰り返し、まばゆい光を放っている。
脳内はぐわんぐわんと大きく揺れ、激しい吐き気に襲われる。
けれども俺は喜びで、胸が溢れていた。

あの時の自分は、どうにかしていたのかもしれない。青年のあの瞳に、甘いボイスに、頭がクラクラしていた。ふわふわと心地よい気分になり、自分の行動の制御が利かなかった。それは、以前カモメに貰った、マリファナとかいうやつを吸った時の感覚に、非常に良く似ている。
驚き、困惑、喜び、彼の表情が一つ変わる度に、じゅくじゅくと胸内が満たされてゆく。
それは居心地が良すぎて、来る日も来る日も、彼の事ばかりが頭の中を支配する様になる。ただ、彼を手に入れるにはどうしたら良いのか、そればかりを考えていた。

珊瑚礁の茨を右に曲がり、洞窟を二つ抜ける。沈没船を左に曲がってしばらく進んだ所に、魔女の住処があった。
何でも願い事を叶えてくれるという魔女は、とても辛い条件を出してくる事でも有名であった。条件を受け入れなかった人魚が食べられた、魔女の元で死ぬまで働かされている、そんな噂ばかりだ。けれどもそれは、辛い条件さえのめば、願いを叶えて貰えるという事だ。他に頼る術もない宍戸は、魔女の元を訪ねずにはいられなかった。
魔女の出す条件は、噂通り辛かった。否、噂より酷いかもしれない。けれども、宍戸は、もう一度彼に、亮と呼んで貰いたいと切に願い、あの快楽を思いだし、魔女の話を受け入れた。

世界が揺れた、目眩がする。
けれども宍戸は幸せであった。
遠のく意識の中、彼の事を思いだして、そっと笑みを零した。

(魔女との契約)
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