校長先生の名前を知らない奴がいても、跡部景吾の名前を知らない奴は、この学校にはいない。
その理由は幾つかあるが、まず一つは整った容姿だ。日本人離れした、栗色の髪とアイスブルーの瞳を初めて見たときはどこの王子かと思ったものだ。そんなお話の中に出てきそうな王子様は、言わずもがな女子にもてる。入学したその日から、毎日の様に呼び出しを受けているのだ。俺からしてみれば、羨ましいことこの上ない。けれども跡部は、告白してきた女子を誰一人として向かいいれることはなかった。人には好みがあるだろうから仕方がないといえばそうなのかもしれないが、学年一美人とも囁かれていた三組の佐々木さんを振った時は流石の俺も苛立ちを隠せなかった。お前は一体、どんな上玉を求めているのかと。答えは直ぐに返ってきた。それが第二の理由。跡部は、宇宙人を探しているらしい。否、違う。宇宙人やそれに準ずる者、例えば、超能力者や未来人、とにかく普通ではない、何かを求めているそうだ。美人の考えることには理解に苦しむ。つまり、佐々木さんは、跡部の求める、宇宙人や超能力者や未来人ではなかった為に振られたということか。俺はそっと佐々木さんに同情した。
けれども、跡部と同じ私立中学だった奴の話によると、彼の奇行は今に始まったことではないらしい。教室の壁をわけのわからないお札で埋め尽くしたり、校内放送でどこの国ともわからない言語で歌われた奇妙な音楽を流したこともあるらしい。しかし、たちの悪い事に、跡部の家は日本でも指折りの大金持ちらしく(俺は思わず耳を疑った)多額の寄付を受け取っている学校は、彼の奇行の前に成す術がなかったらしい。金持ちだからって何でも許されると思うなよ、と俺がぼやくと、跡部に言ってやってくれよ、と岳戸は言った。しかし、大金持ちな彼が何故、こんな県立の平凡な高校へ入学してきたのだろうか。学校側から保護者に転校願いが伝えられたとか、跡部の奇行に見切りをつけた両親が公立へ追いやったとか、様々な噂が囁かれていたが、真意を知るものはいない。

そんな、有名人の彼とつるむ様になったきっかけは何だっただろうか。確か、俺が跡部に話しかけたことが始まりだった気がするが、今となっては覚えていない。何しろ、色々なことがありすぎた。跡部は俺を巻き込み、わけのわからないクラブを作り、SOS団と名付けた。そうして、文芸部員の日吉と、一つ上の学年の芥川、転校生の鳳たちさえもを巻き込んだ。しかし、部長が部長なら、部員も曲者だった。文芸部員の日吉はどこか遠いところから来た…(説明を受けたがよくわからなかった)要は人造人間、宇宙人らしい。そうして癒し系マスコットキャラ(と跡部は呼んでいた)の芥川は未来からきた未来人らしく、常に胡散臭い笑みを浮かべている鳳は、どこかの機関に所属している超能力者らしい。そうして、三者共通して言うことが、跡部はとても奇妙な力を所持しており、それがとても危険な為、跡部を観察に来た、らしい。俺には跡部がそんなすごい力を持っている様に全く見えないのだが。宇宙人や超能力者や未来人を探すSOS団は、跡部と俺と宇宙人と超能力者と未来人によって運営されることとなった。おい、跡部、お前の探しているものは、直ぐ近くにあんぞ。
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