夏が来た。
強い日差しがコートを照らし、一年前のあの熱気を、彷彿させる。
先輩とダブルスでペアを組んでいた俺は、三年になっていた。

「お前、また背ぇ伸びたんじゃねぇの?」
「今年に入って、3センチ伸びました」

こちらを見上げながら尋ねてくる先輩の問いに、素直に答える。すると先輩は、げっと、顔を顰めると一体どこまで伸びんだよ、と俺の背中を勢いよく叩いた。衝撃と共にじんわりとした痛みが、背中に広がる。

「っててて、やめて下さいよ。俺、成長痛酷いんスよ」
「けっ、ちょーたろーくんは良いよなー、どーやったらそんなに身長伸びんのか先輩にも教えてくれよ」

俺の抗議の声も虚しく、不機嫌な表情を浮かべてズンズンと大きな足取りで、宍戸さんはコートに向かって歩きはじめる。

「あ、ちょ、待って下さいよ」

傍に立て掛けておいたラケットを掴み、慌てて彼の背中を追う。隣を歩けば、むすっとした表情で、こちらをちらりと見上げてくる。そんな彼の仕種が愛おしくて、ふんわりと笑みをかえせば、ぷいっとそっぽを向かれてしまう。

「ねぇ、宍戸さん、機嫌直して下さいよー。宍戸さんも、そのうち伸びますって」
「うるせー、俺は別に機嫌なんて悪くねーよ」
(拗ねてるじゃないか)

素直ではない彼の仕種に苦笑しつつも、どうにかして機嫌をとらなければいけないと頭をぐるぐる回転させる。

「ねぇ宍戸さん」

俺の呼びかけに足を止めた瞬間を見逃さない。彼の両肩を掴み、ぐるりと向かい合わせになる様に振り向かせる。
カラン、と音をたててラケットが地に落ちた。

「どうしてそんなに怒ってるんですか?後輩の俺が、貴方より背が高いからですか」
「別に、怒っちゃいねーって」
「なら宍戸さん、ちゃんと俺の目を見て言って下さい」

俺と視線を合わせまいと、宍戸さんは視線を下に落としながら返答する。
宍戸さんが、何を思ってそうしているのかは、俺にはわからないが、その行為はとても、不安になる。

「ねぇ、宍戸さん・・・」
「・・・ったんだよ」
「え?」
「俺ばっか置いてかれてるみたいで嫌だったんだよ・・・!」

顔を真っ赤にさせて、叫ぶ様に言い放つ彼に、俺はぼかん、と呆気にとられた。
全く予想だにしていなかった返答に、頭が上手く回らない。なにが、いったい。どういうことだ。

「え、あ、え?」
「だってお前がかっこ良いから悪いんだろが!久し振りに中等部に遊びに行ったクラス女子も、長太郎が一段とかっこ良くなってたとか話してるし。そんなんじゃ、俺、不安に、なる、じゃ、ねぇか」

話していく内に、段々と俯き加減になる彼とは裏腹に、俺の胸にはじわじわと温かいものが溢れ出す。口元がにやける。体が熱をもつ。目の前の恋人が、いつも以上に可愛くみえる。湧き上がる気持ちを、とめることはできない

「宍戸さん」
「あ?」
「どうしよう、俺、すごく嬉しいんだけど、」

宍戸さんの体をぎゅうっと抱きしめると、馬鹿野郎、と優しい声が耳元で聞こえた。


(成長期ネタが大好きです^ρ^しかし生かしきれていない←)
inserted by FC2 system