ぽろぽろと言葉が零れ落ちる。

「宍戸さん」
「だめ、」

優しい手つきで宍戸の肩を掴み、俯き加減の宍戸の顔を覗き込む様に首を傾げながら、長太郎は彼の名前を呼ぶ。優しい音に胸は高鳴り、どくどくと血が駆け巡る。しかし、そんなときめきを掻き消す様に、宍戸はふるふると首を振り、長太郎の胸板を両手で押し返す。

「宍戸さん」
「お願い、だから」

長い髪の毛はたらりと垂れて、シーツに波紋を造る。宍戸が後退ろうとする度に、ベッドのスプリングがぎしりと唸る。白く細い腕で、必死に押し返そうとする宍戸に、長太郎は顔をしかめた。

「愛しています」

それは、囁く様な小さな声だったが、宍戸の耳にはしっかり届いた。優しいのにどこかしっかりとしたその音に、宍戸の瞳はぐらりと揺れる。胸が暖かいもので溢れるのに、それが苦しい。漆黒の瞳からぼろぼろと滴が零れ落ちた。

「や、だ」
「宍戸さん」
「だめ、」

濡れた瞳を隠す様に、白い手が瞼を覆う。肌は何年も日に当たっていないかの様に青白く、青い血管がうっすら見える。関節が強調された細い指にはきらりと光る指輪がはめられていた。金属で造られたそれは、繊細な造りだが、重々しい。それはまるで、鎖のようだ。

「好きです。好きなんです」



(説明が無いとわからない話=残念な出来。
捕らわれの宍戸さんと、プリンス長太郎。お互い愛しあっているのに結ばれない二人。)
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